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宇都宮地方裁判所 平成3年(わ)442号 判決 1992年12月03日

裁判所書記官

高橋邦夫

本籍

栃木県栃木市吹上町一四〇一番地

住居

不定

無職

吉羽宏四郎

昭和一一年一一月二九日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡邉徳昭及び弁護人梅澤錦治(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人に懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中二五〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、ヨシバ建設株式会社の代表取締役であるが、栃木県栃木市大宮町二〇五一番地一六に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする株式会社安田住宅の代表取締役安田稔と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人において、ヨシバ建設株式会社と株式会社安田住宅間に不動産の売買取引あるいは土地売買に関する請負契約が存在したかのように仮装した領収書を作成交付するなどした上、右安田が、土地売却代金等を過少に申告し、架空の土地売買協力費等を計上するなどの方法により、所得を秘匿した上、

第一  昭和六二年二月一日から同六三年一月三一日までの事業年度における株式会社安田住宅の実際所得金額が一億一二八一万三六七一円、課税土地譲渡利益金額が四七四六万円、課税留保金等が零(別紙一修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年三月二四日、同市本町一七番七号所在の所轄栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五二五九万五七七一円、課税土地譲渡利益金額が零、課税留保金額が八四五万四〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二一二二万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、株式会社安田住宅の右事業年度における正規の法人税六〇二〇万九八〇〇円(別紙三税額計算書参照)と右申告税額との差額三八九八万二七〇〇円を免れ、

第二  昭和六三年二月一日から平成元年一月三一日までの事業年度における株式会社安田住宅の実際所得金額が九億六四八五万二四一八円(別紙二修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年三月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億〇九七六万三七五〇円であり、これに対する法人税額が四三五五万〇七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、株式会社安田住宅の右事業年度における正規の法人税四億〇二六五万七一〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額三億五九一〇万六四〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成三年一一月一二日付け、同月二七日付け、同年一二月四日付け、同月一一日付け、同月一四日付け、同月一五日付け、同月一七日付け及び同月一八日付け各供述調書

一  証人安田稔の当公判廷における供述

一  吉羽弘子及び飯塚俊子の検察官に対する各供述調書

一  安田一江、中山昇(二通)、狐塚秀夫(二通)、荒井勇、吉羽慶祐、吉羽基亘及び安田稔(平成三年七月六日付け、同月二〇日付け、同月八月三日付け、同月六日付け、同月一九日付け【検一号】及び同月二〇日付け【検二号】)の検察官に対する各供述調書謄本

一  中山克彦、向井忠幸及び吉羽弘子(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  榊原啓、野村博、風間秀夫、村田明、井戸政弘、堀美樹、原忠男、三神千弘、井上恵吉、山崎広美、吉羽徹真(平成二年一月二六日付け)及び安田稔(平成元年一〇月二七日付け、同年一一月七日付け、平成二年二月二三日付け及び同年六月二一日付け)の大蔵事務官に対する各質問てん末書謄本

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書謄本

一  大蔵事務官作成の仕入高調査書謄本

一  大蔵事務官作成の寄付金調査書謄本

一  大蔵事務官作成の減価償却費調査書謄本

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書謄本

一  大蔵事務官作成の道府県民税利子割額調査書謄本

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書謄本

一  大蔵事務官作成の有価証券売買益調査書謄本

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書謄本

一  大蔵事務官作成の査察官報告書謄本六通

一  栃木税務署長作成の回答書謄本

一  川口税務署長作成の回答書謄本

一  登記官作成の登記簿謄本二通

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する平成三年一一月一三日付け及び同月一四日付け各供述調書

一  木村正一(二通)、保坂二郎、若林平吉、兼崎幸男及び安田稔(平成三年七月一六日付け及び同年八月一一日付け)の検察官に対する各供述書謄本

一  佐野猛、大沼利博及び安田稔(平成元年一〇月二四日付け)の大蔵事務官に対する各質問てん末書謄本

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する平成三年一一月一五日付け、同月二六日付け、同年一二月五日付け、同月一〇日付け、同月一三日付け及び同月一六日付け各供述調書

一  朝妻秀明、荒井誠、伊藤芳信、塩沢敏雄(二通)、高島良教(五通)、中野義一(二通)秋山正好(三通)、秋山正昭、矢尾板充、加藤誠一、吉羽徹真(九通)、蒔田初美、蒔田孝夫、吉村昭夫、大森保(三通)田村豊次、若井毅、長塚昇 (四通)、荒井洋、岡静雄、安田稔(平成三年八月一二日付け、同月一五日付け、同月一六日付け、同月一七日付 け、同月一九日付け〔検二号〕及び同月二〇日付け〔検一号〕、渡辺弘、坂本鐵之助、大嶋茂、出井甲子男、坂本勝治、落合忠彦及び出井政代の検察官に対する各供述書謄本

一  吉羽徹真(平成元年一〇月一七日付け及び同年一一月一日付け)及び安田稔(平成元年一〇月二〇日付け、同月三一日付け、同年一一月二日付け、同年一二月一九日付け、平成二年三月一六日付け及び同年四月二七日付け)の大蔵事務官に対する各質問てん末書謄本

一  検察官作成の捜査報告書謄本二通

一  栃木県森林土木課長、同県土木部都市計画課長及び同県農務部次長兼農政課長各作成の捜査関係事項照会回答書謄本

一  検察官作成の電話聴取書謄本二通

一  検察事務官作成の平成四年六月一八日付(二五通)及び同月一九日付(三通)各電話聴取書謄本

(事実認定の補足説明)

一  鴨川ゴルフ場について

株式会社安田住宅(以下「安田住宅」という。)は、昭和六三年一月期において、千葉県鴨川市打墨地区のゴルフ場の測量・設計等をヨシバ建設株式会社(以下「ヨシバ建設」という。)に請け負わせて一五七〇万円支払った旨公表しており、右支払いに関して、ヨシバ建設から安田住宅宛てに昭和六二年四月五日付け五〇〇万円の領収証(「鴨川カントリーの測量設計代」名目)、同年六月三日付け同額の領収証(「鴨川市打墨地区測量及び伐採及び設計代」名目)及び同年七月一〇日付け五七〇万円の領収証(「鴨川カントリー土質及び水質調査料(ボーリング代)」名目)が作成されている。しかしながら、前掲各証拠によれば、同ゴルフ場についてヨシバ建設は株式会社ニッケン地盤開発にボーリングを三三〇万円で下請けに出した以外に作業を行っていないことが認められるから、被告人と安田稔(以下「安田」という。)は、共謀の上、少なくとも設計、測量及び伐採名目の各五〇〇万円、合計一〇〇〇万円分について架空経費を計上したものと認められる。

なお、被告人は、公判定において、前記六月三日付け領収証は架空のものであると認めるものの、四月五日付けのものは、被告人がゴルフ場開発の情報等を安田に提供したことに対する謝礼などの意味でもらった金につき作成された領収証であると述べており、また、安田は、右二通の領収証はいずれも、被告人からゴルフ場開発等の情報提供を受けたことで支払った謝礼に関し作成されたものであると述べている。そこで、まず右六月三日付け領収証について検討するに、右領収証が被告人ではなく安田の筆跡によること、ヨシバ食品株式会社の会社印が押印されていることからして、ヨシバ建設の登録印が押収された後である昭和六三年二月以降に作成されたことが明らかであるなどの事情に照らすと、被告人自身も供述しているとおり、右領収証は架空のものと認められる。次に、右四月五日付け領収証について検討するに、被告人が調査段階において、「被告人が安田に紹介したゴルフ場の件はいずれも成功しなかったので、報酬はもらっていないし、また、報酬をもらえるような筋合いではない、ブローカーは話が決まっていくらという仕事であり話が決まらなければ報酬も請求できない。」旨述べていること(被告人の平成三年一二月一〇日付け検察官に対する供述調書)や、真実被告人らが供述しているような支払いがなされていたならば、ことさらこれと異なる名目で領収証を作成しなければならない理由が窺えないこと、安田は調査段階において右のような供述を全くしておらず、被告人から前記のような供述が出てからそれに沿うように供述を変えてきていることなどに照らすと、右領収証がゴルフ場開発の情報提供に対して支払われた金につき作成されたものであるという被告人らの供述は信用できず、仮にそのころ、安田から被告人に対し、何らかの金が支払われていたのだとしてもその経費性を窺わせるような事情は存しない。

二  宇都宮市南大通りの土地取引について

昭和六三年一月二一日、宇都宮市南大通り四丁目七番八号所在の土地が安田住宅からヨシバ建設に三億四〇〇〇万円で売却され、同日右土地がさらにヨシバ建設からワールド商事株式会社(以下「ワールド商事」という。)に三億九五〇〇万円で売却された形となっている。しかしながら、前掲各証拠によれば、被告人は、右土地の売買交渉に全く関与しておらず、安田住宅を売主、ワールド商事を買主とする前提で交渉が進み、売買代金が三億九五〇〇万円と決定されていたこと、ヨシバ建設がこの売買の中間に入る旨の話は、売買代金決定後正式契約を締結する直前になって安田からワールド商事側に持ち出されたこと、ワールド商事側は被告人について全く面識がなく、安田はヨシバ建設を中間買主とすることで迷惑をかけない旨ワールド商事に念書をいれており、同社の土地売買代金も三億九五〇〇万円で変動がなかったこと、ヨシバ建設とワールド商事間の売買契約書作成に際して、必要事項の記入はもっぱら安田らが行い、被告人は黙ってそれに立ち会っているだけであったこと、登記も安田住宅からワールド商事に直接移転していることなどの事実が認められるのであり、他方、安田自身も、右取引について、安田住宅とワールド商事間の直接取引の形をとると高率の税金によって安田住宅にほとんど利益が出ないことになるので、それなら借金で苦しんでいる被告人のためヨシバ建設を間に入れて税金分を浮かし、被告人に利益を与えようと考えたと供述している。これらの事情によれば、右土地売買は真実は安田住宅とワールド商事間のものであったにもかかわらず、被告人や安田は、安田住宅の利益を圧縮する目的で、ヨシバ建設が売買契約の当事者になったとの架空の外形を作成したものと認められ、したがって、ヨシバ建設が右土地をワールド商事に売却して得た形となっている五五〇〇万円の利益は、安田住宅に帰属すると認定されるのであり、被告人らが虚偽の外形を作出することによって右利益についての安田住宅への課税を免れたことは明らかである。

三  西方ゴルフ倶楽部開発について

検察官は、西方ゴルフ倶楽部(以下「西方ゴルフ」という。)のゴルフ場用地取得作業につき、安田住宅からヨシバ建設に支払われた形となっている一五億円のうち、実際に地上げ費用としてかかった八億一三〇〇万円を除いた六億八六〇〇万円余は架空経費であると主張しており、これに対し、被告人は、公判廷において、右六億八六〇〇万円余の金銭のうち、約四億三〇〇〇万円はヨシバ建設が行った地上げのための活動や国土利用計画法(以下「国土法」という。)違反に対する報酬として同社が取得したものであり、その余の約二億五〇〇〇万円は安田住宅に礼金として戻されたと供述し、また、安田も公判廷でこれに沿った供述をするとともに、右約二億五〇〇〇万円のうち約二億円は地権者や地元有力者に対する簿外経費の支払いに使用したと供述しているので、以下この点にいつて検討する。

1  地上げの報酬性について

前掲各証拠によれば、ヨシバ建設は、被告人が以前経営していた株式会社ヨシバの商号を変更して設立されたものであるが、事務所や従業員を持たず、建築や不動産取引の免許・資格もなく、商業帳簿も全く備えておらず、設立後一度も法人税の申告をしていない、いわゆるペーパーカンパニーであったこと、安田住宅および安田にとって、このようなヨシバ建設若しくは被告人に西方ゴルフ場の地上げそのものを請負わす必要性も合理的な理由も全くないこと、同社の代表者である被告人は、昭和六二年一二月の西方ゴルフ場の開発に関する関係官庁との事前協議終了以前には、何ら地上げ作業に従事していないし、その後もほとんど西方ゴルフ場開発予定地の現場に来たことはなく、地権者との地上げ交渉等に何ら関わっていないことが明らかである。したがって、同社若しくは被告人が西方ゴルフ場用地の地上げを行ったという実体は全くなく、同社が安田住宅から支払いを受けた金員の中に地上げの報酬が含まれていたとは認められない。被告人は、「実際の交渉に関わった弟の吉羽徹真の尻を叩くことによって地上げに関与した。」などとも供述しているが、その内容は、被告人自身の供述によるも、専門的知識に基づく指導・助言といったものではなく、精々地上げをせかすという程度のものに過ぎず、仮に右供述どおりのことを被告人がやったものとしても、この程度のことが地上げとして報酬を受けるに値するものとは到底認められない。

なお、本件においては、ヨシバ建設と安田住宅との間において、ヨシバ建設が西方ゴルフ場予定地の地上げを一八億八〇〇〇万円で請負う旨の昭和六三年一月一〇日付覚書が存在し、被告人や安田らは真実右のような契約が両社間にあったかのように供述するので付言するに、先にもみたとおりヨシバ建設が地上げを行ったという実態が全くないことや、被告人自身、地上げの報酬についての具体的合意はなかっとも公判廷で述べていることからして、右覚書内容が実態とかけ離れたものであることは明らかである。そして、覚書に記載されてある地上げの履行期等が不自然であること(例えば、西方ゴルフ場開発の事前協議において、同ゴルフ場造成工事の着工期限が昭和六四年一二月二〇日と定められていたにもかかわらず、右覚書では地上げ等の履行期が右着工期限後の昭和六四年一二月三〇日となっていることなど。)、覚書ではヨシバ建設の登録印でない「ヨシバ食品株式会社」名の印が使用されているが、これは前記のとおり昭和六三年二月に右登録印が押収されて使用できない状態にあったからと認められること、フロッピーディスクに収容されている文書の内容の分析により、他の多くの文書が作成日付よりもかなり後に作成されていると判明していること、右覚書と同日付であって、かつ右覚書内容の前提をなす体裁となっている株式会社西方ゴルフ倶楽部と安田住宅との間の西方ゴルフ場開発に関する覚書内容が、平成元年三月に千代田設計株式会社により作成された協議書内容と一部全く同じであることなどの事情に照らすと、前記覚書は平成元年三月以降に作成された疑いが強く、ヨシバ建設と安田住宅間の真実の契約関係を示すものとは到底認められない。

2  国土法違反の報酬性について

被告人及び安田は、当初開発予定外であった土地が西方ゴルフ場開発に必要となったため、右土地を国土法の届出をしないまま買収し、被告人が名義人となって地権者から登記を移転したことに対するヨシバ建設への報酬分が三ないし四億円程度あると供述する。

そこで検討するに、関係各証拠によれば、<1>先にもみたように、被告人は、昭和六三年一月期から、安田住宅の脱税に関わるようになっていたところ、西方ゴルフ場開発に関わるようになった経緯は、「安田から西方ゴルフのオーナーが代わり多くの儲けが出そうだという話が出たので、『経理の帳尻合わせのための領収証ならヨシバ建設で切るよ。しっかり儲けさせて下さい。』と安田に言って、ヨシバ建設の架空領収証を利用してもらうことになった。」(被告人の平成三年一二月一四日付検察官に対する供述調書)というのであり、被告人、安田あるいは吉羽徹真においても、中山昇、秋山正昭及び高島良教等の知人ないし関係者に対し、被告人が架空領収証作成によって脱税に協力する立場にあるような話をしていること、<2>被告人は、報酬を得ることと引き換えに架空領収証作成に関わるようになった後、国土法違反の土地取引をする必要が生じたのを聞いて、国土法違反の登記名義人になることに自ら進んで協力したが、この点について新たに報酬を要求してはおらず、その後も、安田との間で右報酬額について具体的な合意がなされた形跡は全くないこと、<3>国土法違反に関する県庁等との交渉はもっぱら安田らが行い、被告人は全く関与していないし、被告人は自己の名義で登記された土地がどの程度あるかも知らなかったこと、<4>国土法違反による登記はいずれ県に発覚することは必至であったが、被告人は、不動産取引に関する免許などを有していないため、仮に国土法違反に対する制裁を受けるとしても、右制裁は被告人にとって大したものではないことが予想され、安田自身「昭和六三年当時国土法の問題はさほどうるさく言っておらず、一般人の違反についてはせいぜい始末書程度であることを知っていた。」旨述べていること(同人の平成三年七月二〇日付検察官に対する供述調書)、<5>現実にも被告人は、平成元年一月に県庁に始末書(文面は安田が作成したもの)を提出しただけで済んでおり、それ以上の制裁を受けていないこと、<6>ところが、先にみたように国土法違反の報酬額が予め決められていた訳ではないのに、被告人らの公判供述によれば、右のような極く軽微な処分で済んだ後の平成元年一月三一日以降になって、三億円余りという極めて多額の報酬がヨシバ建設に支払われた形になっていることが認められる。

これらの事実、殊に、国土法違反に対する制裁が極く軽微なものにすぎないことやヨシバ建設に対する報酬が支払われたという時期に照らすと、被告人の国土法違反協力に対する報酬が三ないし四億円程であるという被告人らの供述は、不自然・不合理で信用できないことは明らかであって、その程度の行為で多額の報酬を支払ったとは到底考えられないところである。そして、そもそも、先にみたとおり、被告人が西方ゴルフ場開発に関わるようになったのは、安田住宅の脱税に協力した上で、自らも何らかの利益を得る目的からであったと認められること、脱税協力行為は、脱税の事実を隠すためにその後の税務調査や査察等に対する対応が必要である(現に被告人は、税務調査開始後約二年間にわたって行方をくらましている。)だけでなく、ゴルフ場開発に関わる巨額の脱税事件として安田や被告人が刑事訴追を受ける可能性がある重大な犯罪行為であるのに比して、国土法違反協力行為自体は、いずれ発覚することが予期されるものの、軽微な制裁で済むことが明らかであって、両行為における被告人の役割の重要性が格段に異なること、国土法違反協力の報酬についての合意が具体的になされた形跡がないことなどの事情をも考慮すると、被告人としては、架空領収証の作成などと同様に、いわば安田住宅の脱税に協力して自らも利益をえるための、一つの手段として国土法違反に協力したようなものであったと考えられ、これに対して独立して報酬を与えるような合意ないし認識が被告人らの間にあったとは認められない。

したがって、被告人の国土法違反行為に対して何らかの報酬が支払われたとしても、それは被告人が安田住宅の脱税に協力したことに対して支払われた、いわゆる脱税協力報酬の一部というべきであるから、安田住宅の損金にならないことは明らかである。

3  簿外経費の支払について

安田は、公判廷において、ヨシバ建設から還流された金のうち約二億円を地権者や地元有力者に対するいわゆる裏金として使用したと供述している。

そこで、まず、地権者に対する裏金の支払いの有無について検討するに、関係各証拠によれば、<1>西方ゴルフ場用地の地上げ価格については、売買契約書記載の取引額の他に立木補償費ないし立木伐採料名目で金銭の支払い約束がなされ、右合計額が支払われた後に、契約書記載額分とそれ以外の支払分につき別々の領収証が発行されたこと、<2>地権者の中には、立木補償費ないし立木伐採料名目の金銭については税務申告をしないでよいと吉羽徹真らから言われた者がおり、実際に申告しなかったため、後に修正申告を余儀なくされた者もいたこと、<3>地上げ交渉を行い代金の支払いにも関与した秋山正好は、「大部分の地権者については国土法価格に立木補償費を上積みした価格で折合いがついたが、高額の支払いを要求した地権者に対しては立木伐採料の名目で支払いをした。」旨述べている(平成三年七月二二日付検察官に対する供述調書)だけであり、その他にも裏金があったとは述べておらず、地権者らも立木補償費ないし立木伐採料名目以外に裏金の支払いを受けたりしたことはないと一致して供述していること、<4>昭和六三年秋から平成元年初めにかけて、地上げ交渉を行った中野義一や秋山らと安田との間で報酬額について紛議が持ち上がった際、安田は多額の報酬が出せない理由として、立木補償費等のほかに予想外の裏金がかかった、あるいはかかりそうだというようなことを何ら述べておらず、その際安田住宅にあった領収証等を基に報酬額決定の参考資料として作成された支払額一覧表にも、そのような裏金の記載は全くないことが認められる。これらの事実によれば、立木補償費ないし立木伐採料名目で支払われた金員は、それ自体本来の土地代金を越えた裏金的なものであると認められるところ、その支払以外に地権者に対する裏金の支払いはなかったと認めるに十分である。

なお、安田は、右客観的事情と明らかに矛盾する供述をしていながら、今後の事業に差し支えがあるなどと理由を述べて、裏金を支払ったという地権者の具体的名前や金額などを明らかにしようとせず、あいまいな供述に終始しているのであるが、同人の供述は先に認定したところに加え、以下のような事情により信用できない。すなわち、安田の公判廷における供述は、「二〇人ほどの地権者に平成元年三月以降裏金を支払った。地上げは前年の段階にできていたが、その時点では難航している他の地上げの関係もあって資金的なめどがはっきりしなかったため、裏金の資金ができてから支払うということにしたものである。地権者に対し、裏金を支払うという念書などは入れておらず、また領収証も取っていない。」というものである。まず、裏金の支払時期に関してであるが、安田住宅に対しては、昭和六二年暮以降約半年ほどの間に地上げ費用約一七億円がオーナーのダイヤモンドゴルフ株式会社から支払われており、また安田の供述によれば同人はいわゆるタンス預金として一億円前後を有していたというのであるところ、地権者に支払われた土地代、立木補償費及び立木伐採料の合計額は最終的にも八億円余りだったのであるから、安田が地権者との間で次々に地上げを完了させていた昭和六三年春から夏ころの間にはかなりの資金的余裕(単純に計算すれば約一〇億円)があったはずであり、何故に二億円程度の裏金を直ちに支払おうとせず、翌年まで支払いを猶予させたのか理解できない。次に、資金的めどが立たなかったという点についても、安田住宅が当時ダイヤモンドゴルフから得ていた金額が巨額に上ることや、安田が、他方では、地上げが大体できるという見通しがあったので、昭和六三年四、五月ころ、被告人に四〇〇〇万円を貸したなどと地上げのめどにつき相矛盾する供述をしていること等に照らし、にわかに信用できない。また、立木補償費等では足りず、これ以外の裏金まで要求していたという地権者らが、登記名義の移転と引き換えではなしに、かつ、念書等の作成も要求せずに(立木伐採料については、残代金支払時にこれを支払う旨の念書が作成されている。)翌年まで支払いを猶予したというのも極めて不自然である。以上の事情に加えて、そもそも、安田自身捜査段階では公判廷におけるような供述をしておらず、その供述内容が多くの点で変転を重ねていることにも照らすと、地権者に対し立木補償費等以外にも裏金を支払ったという安田の供述は極めて不自然、不合理であって、到底信用できない。

また、公務員を含む地元有力者に対して金を支払ったという供述についても、事前協議が終了して一年以上も経ち、地上げもほぼ終了した後になって支払いがなされたとされているなど不自然な点があるし、そもそも右供述が地権者に対する裏金支払いの供述と軌を一にして新たに安田が述べ始めたものであることからすると、右は資金の出入りに関するつじつま合わせのための供述である疑いがあって、にわかに信用できず、他に有力者ないし公務員に対する裏金提供を窺わせるような具体的事情は存しない。

4  まとめ

本件においてヨシバ建設に支払われた形となっている金の使途について、被告人も安田も詳細を供述せず、その全容は明らかでないが、以上検討してきたところに照らすと、被告人が取得した金は、いずれも脱税の協力に対する報酬と認められ、これを損金と評価することはできないし、他に検察官が冒頭陳述で主張するもの以外に損金は認められない。

四  共同正犯の成否及びその成立範囲について

なお、弁護人は、本件において、被告人には被告人が関与した鴨川ゴルフ場関係、宇都宮市南大通りの土地取引関係及び西方ゴルフ場の地上げ関係のみについて幇助犯が成立するにすぎないと主張するので付言するに、まず、被告人自らが直接関わった行為については、先にもみたとおり、被告人は、安田住宅の法人税過少申告に向け、売買契約書や覚書などの虚偽の証憑書類の作成に関与するなど、脱税工作の重要部分に協力しており、それによって多額の利益も得ていたことが明らかであって、少なくとも共謀共同正犯としての責任を負うべきことは明らかである。ところで、検察官が冒頭陳述で脱税と主張するもののうちには、被告人が全く関与していないものもあるが、被告人の加功した脱税行為は安田のその他の脱税行為とともに安田住宅の各事業年度毎に単純一罪としての法人税ほ脱罪を構成するものである以上、被告人が関与していない部分があることを情状として考慮することは別として、被告人が一罪たる昭和六三年一月期及び平成元年一月期の各法人税法違反罪の全体について共同正犯としての責任を負うものというべきである。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条、一六四条一項に該当するところ、各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して未決拘留日数中二五〇日を右刑に算入することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が安田住宅の代表取締役安田稔と共謀の上、安田住宅のゴルフ場開発や土地取引につき、被告人が代表者となっているペーパーカンパニーであるヨシバ建設を関与させ、架空経費を計上したり売り上げ除外をするなどして、安田住宅の法人税に関して脱税を行ったという事案である。

被告人は、報酬を得る目的で、安田住宅の一連の所得秘匿工作の大半に関わり、その中で、架空契約書や領収証を作成したり、ヨシバ建設名義で開設した銀行の預金口座を通して請負代金等の支払を受け、あたかも同会社に対する支払が正当なものであるかのように装うなど、所得秘匿工作の核心をなす重要な役割を果し、その結果、合計脱税額約四億円、税額のほ脱率八六パーセント(昭和六三年一月期は六四.七パーセント、平成元年一月期は八九.一パーセント)という巨額かつ高率な脱税がなされることになったのであり、被告人自身真相を語っていないため詳細は明らかでないものの、右脱税協力により多額の報酬を得ていたのであって、自ら報酬を得ながら巨額の脱税を実現させたというその犯行態様は誠に悪質というほかない。被告人は、昭和六三年二月ころ、比留間建設株式会社の法人税法違反事件に協力したことで国税査察官の取り調べを受けながら、何らこれを顧みることなく、再び本件脱税工作に手を染めたのであり、犯行後安田住宅に税務調査が入ってからも、脱税の発覚及び調査の拡大を防ぐため約二年にわたって行方をくらまし、捜査、公判においても一見脱税を認めたかのような態度をとりながら、多額の資金の流れ等につき真相を語ろうとせず、むしろ重要部分について安田と歩調を合わせて積極的に不自然・不合理な弁解をするなどしているのであって、犯行後の情状も甚だ悪質であり、租税法秩序を軽視する態度が顕著である。

このような脱税行為は、単に国家の財政に損害を与えるのみならず、正直な納税者に不公平感を助長して国民の納税意欲を阻害し、申告納税制度の基礎を危うくさせるものであり、殊に報酬を得て脱税に協力する被告人のようないわゆる脱税請負人に対しては、一般予防の見地からも厳しくその責任が問われるべきであって、先に検討した本件脱税の規模や犯情の悪質さをも併せ考慮すると、本来ならば、本件は当然実刑相当の事案と考えられるところである。

しかしながら、他方、本件は安田住宅の法人税法違反の事案であり、安田は被告人が関与するようになった以前の昭和六二年一月期にも脱税をしているなど、本件一連の犯行を具体的に計画したのは安田であって、被告人は安田の指示に従って架空領収証等を作成したものであること、本件の脱税により主たる利益を得たのも安田であること、被告人は、身を隠していた先の鹿児島で脳出血を起こし、身体が一部不自由になるなど健康状態に問題があること、本件によって逮捕されてから既に約一年の間拘留されており、被告人の健康状態を考えればそれ自体相当の制裁となっており、収容されたままで今一度冬の時期を過ごさせるのはいささか酷とも考えられることなど、被告人にとって斟酌すべき事情も認められるのであり、これらの事情をも考慮すると、今回に限っては、刑の執行を猶予するのが相当と考え、主文記載の刑に留めた次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久保眞人 裁判官 樋口直 裁判官 小林宏司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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